2005-01-27

モーツァルト: ピアノ協奏曲 / チアーニ

何という録音,何という演奏

モーツァルト: ピアノ協奏曲 / チアーニ ディノ・チアーニ (p)
モーツァルト: ピアノ協奏曲 K466, K491 (DYNAMIC - CDS452)

買ったまま封も切らずに置いてあったチアーニのモーツァルトを聴いてみた. 名曲中の名曲, モーツァルトのピアノ協奏曲第20番と第24番のカップリング. 音が流れだしてすぐに愕然とした. あまりにすごい演奏に? いいや, あまりにひどい録音に.

思わずジャケットを確認したら1970年のライブ・レコーディング. とてもこの時代のものとは思えないような録音だ. まずはマイクが妙に遠い. それなのに観客の咳払いはすごく近く聞こえる. まるで客席で録音したみたいだ. 1,2回バーンと大きなノイズが入るし, まれにテープがよれているような感じの歪みさえある. 最悪なのはピアノの音色がいくぶん金属的なこと. もともとはとてもきれいな音色らしいのに.

だが, しばらく我慢して聴いていると, だんだん音の悪さを忘れてしまっている自分に気づいた. 実にユニークな演奏. カデンツァはごく普通の, モーツァルトが書いたもののはずなのに, 初めて聴くタイプのものに思える. うまいな, と感心していたら, 続くロマンツェには心底魅了されてしまった. どう形容していいのかわからないが, 引きずり込まれるとしか言いようがない. 24番でも, テンポの遅い部分や弱音が抜群によい.

20番と24番は, 内田光子, バレンボイム, ハスキル, ビルソン, シュミット, ワルター, カーゾン, マリナー, アンダ, カサドシュ, ハンあたりのCDを持っていて, 内田光子とアンダのものがなかでも気に入っていたのだが, これはことによるといちばん好きな演奏になってしまったかも….

このピアニストは初めて聴いたが, まったく驚かされた. さっそくボックス2種(ディノ・チアーニ トリビュートディノ・チアーニ・コレクション)を注文. 届くのが楽しみだ. だって,ショパンのエチュードのこんな感想を読んでしまったら, 期待もいや増すばかりだ.

エチュードの僕の愛聴は、コルトー、ヴィルサラーゼ、ロルティ。 それぞれに難曲に真摯に対峙していて、どれも爽快感に溢れている。

だが、本当に、圧倒的に素晴らしかったのが、ディノ・チアーニだった。 アシュケナージほどの技巧の冴えがあるわけではないのだが、 とにかくファンタジーに満ちている。

三度で滑らかに上昇していくさまは、まさに音が天に昇っていくようだし、 しなやかに下降してくるさまは、水面に光きらめく清流を感じさせる。

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2005-01-23

バッハ: ゴルトベルク変奏曲 / 武久源造

決定的名盤

武久源造 武久源造 (Cembalo)
バッハ: ゴルトベルク変奏曲 (ALM Records - ALCD1013)

もう少し若い頃なら ゴルトベルクのCDはこれしかいらないと言ってしまったであろう, 驚くべき, 決定的名盤.

ゴルトベルクのCDは他に10種類ほど手元にあるが,このCDに出会うまではEdith Picht-Axenfeldのものを愛聴していた.いまでも, 第8変奏など,部分的に武久の演奏より好きなところもあるが, まず手が伸びなくなってしまった.

自然だが非凡な演奏

まず冒頭のアリアの美しいこと!この慈しみと癒しに満ちた旋律を, 味わう暇もなく快速に弾きとばしてしまう演奏はぼくにはとんでもない. かといって, ただ遅いだけではどうしようもないが, 武久のはゆったりと味わい深く,人生のように流れる.

続く第1変奏の入り方が絶妙. ぼくは, これまでどの演奏を聴いても, 少しうるさいと感じてしまうのが常だった. 第1変奏は勢いがあるので, アリアが優しく消えていった直後だと, どうしてもそんな風に思えてしまう. グールドの新盤は論外だが, 他の演奏でもいつもかすかな不快感があった.

ところが, 武久のは, 「そっと」と形容すると言い過ぎだが, ごく穏やかに滑り込んでくるようななめらかさで入ってきて, これから,もう一度ここに戻ってくるまでの, 喜びに満ちた長い旅が始まるのだという気持ちにさせてくれる.

もうひとつ,この演奏ではチェンバロの音色がたとえようもなく美しく, いつまでも聴いていたくなる. この音の良さについては興味深いことを書いているページがあった.

あるチェンバロの演奏会をきっかけにして、チェンバロの音が苦手になりました。また、あるレコードを聴いて、バッハのゴールトベルク変奏曲が苦手になりました。その苦手意識を追いやってくれたのが、武久源造のCDでした。

バッハの音楽があるから生きていける

それにしても, バッハ, バッハ, バッハ. この奇跡のような曲について,何を書くこともできないので, ライナーノーツの武久の言葉を引用する.

録音を終えたとき, このような素晴らしい曲がこの世に存在し, それを, ある緊張感を持って体験し得たことに対する, 言い尽くし得ない感謝が心に満ち溢れていた. ただ, 恵によって私の中に起こされた愛が, この偉大な作品にほのかな良い香を添えるものであって欲しいと願うのみである.

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2005-01-15

バッハ: 無伴奏チェロ組曲 / ヴィリアンクール

文学的な,あまりに文学的な

バッハ: 無伴奏チェロ組曲 / ヴィリアンクール ドミニク・ドゥ・ヴィリアンクール (Vc)
バッハ: 無伴奏チェロ組曲(全曲) (EA Records - EA 0312)

田舎住まいを始めてから, コンサートに行く機会が激減し, 音楽界の動向にも興味がなくなってしまった. 最近評判が高いらしい, このドミニク・ドゥ・ヴィリアンクール(Dominique de Williencourt)というチェロ奏者のことも全然知らなかった.

約3ヶ月前にアリアCDに注文していたCDが今日届いたのだが, そのときの気持ちをすっかり忘れていることもあり, 何の先入観もなく2番から聴き始めたが, プレリュードが始まるなり, 「おおっ」と思わせられた. なんと文学的なチェロだろう. 明るく軽めの音はぼくの好みとは違うのだが, 素晴らしくうまくて, 聴き惚れてしまった. それにしても, こんなに思い入れたっぷりに間をとりながら弾かれたサラバンドは聴いたことがない.

ぼくは同じ曲のCDをたくさん買う方ではないのだが, それでもバッハの無伴奏チェロ組曲なら10種類近く手元にある. その中ではビルスマの新盤がぼくのスタンダードだ. なにせ一時は運転中のBGMはずっとこれだったので, 一体何回聴いたかわからないほど. ことによると3桁に乗っているかもしれない. 必然的に,これがいちばんしっくりくる演奏なのだが,最近は, T.S.氏の素晴らしいバッハ:無伴奏チェロ組曲 CDの感想のページで次のようにべた褒めだったモルテン・ツォイテン(Morten Zeuthen) のものを気に入って聴いていた.

「これはすごい!」と最初の数小節を聴いて心の中で叫んでしまいました。 颯爽としたテンポで躍動感に溢れており, 明るく引き締まった音色にも魅了されます。 力強く, また, しなやかに, 柔軟性に富んだ表現も素直で嫌みがありません。 しかもこれだけの演奏でありながら, 余力さえ感じさせる技術レベルの高さにも脱帽です。 何より演奏者本人が心底演奏を楽しんでいるということが, この活き活きとした音楽を通して伝わってきますし, 聴いているこちらまで心躍ってくるところが本当に素晴らしい!です。 バッハってホントにいいなぁ... と感動しました。

が, あまりにスポーツ的に聞こえることに物足りなさを覚え始めていたので, 胸にしみいってくるようなこの演奏はとても新鮮に感じた. テンポを揺らしすぎのところがいつか鼻についてきそうな気もするが, 当分はこの盤に手が伸びそうだ.

[2006/11/1 追記]

バッハ: 無伴奏チェロ組曲 / フルニエ [1959] ヴィリアンクールの演奏,いまでも気に入っているが,現時点でのダントツ愛聴盤は,フルニエの1959ジュネーブ・ライブ.ビルスマはもう聴かなくなってしまったなあ….どこがどういいかは,ネットでいくらでも出てくるが,たとえば T.S.氏の文章がぼくの気持ちにピッタリ.

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